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那覇地方裁判所 昭和51年(ワ)99号 判決 1979年2月20日

全事件原告 シーサイドプラザ運営株式会社破産管財人 中野清光

右訴訟代理人弁護士 仲宗根啓正

昭和五一年(ワ)第九九号事件被告 東武トラベル株式会社

右代表者代表取締役 柴田一稔

右訴訟代理人弁護士 金城睦

同 金城清子

同 佐井孝和

同年(ワ)第一〇〇号事件被告 株式会社読売旅行

右代表者代表取締役 菅尾且夫

右訴訟代理人弁護士 小波本健雄

同年(ワ)第一〇一号事件被告 株式会社日本エアー・ツーリスト

右代表者代表取締役 嘉味田朝章

右訴訟代理人弁護士 新里恵二

右訴訟復代理人弁護士 国吉真弘

同年(ワ)第一〇四号事件被告 沖縄ツーリスト株式会社

右代表者代表取締役 東良恒

右訴訟代理人弁護士 宮良長辰

同 宮城嗣宏

同 照屋林英

主文

一  原告の主位的請求は、全事件について、いずれも棄却する。

二  被告沖縄ツーリスト株式会社は、原告に対し、金二五六四万八〇〇円とこれに対する昭和五二年九月二二日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告沖縄ツーリスト株式会社に対する予備的請求中その余の部分及びその余の被告らに対する各予備的請求は、いずれも棄却する。

四  訴訟費用は、第一〇四号事件について生じたものはこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余を同事件被告の負担とし、その余の事件について生じたものはいずれも原告の負担とする。

五  この判決は、主文二について、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  主位的請求の趣旨

(一) 第九九号事件

被告東武トラベル株式会社(以下、株式会社の部分を省略する。他の被告についても同じ。)は、原告に対し、金二一三〇万七〇〇円とこれに対する昭和五一年三月二八日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

(二) 第一〇〇号事件

被告読売旅行は、原告に対し、金二八六七万五六〇〇円とこれに対する昭和五一年三月二八日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

(三) 第一〇一号事件

被告日本エアーツーリストは、原告に対し、金九三九七万四一〇〇円とこれに対する昭和五一年三月一三日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

(四) 第一〇四号事件

被告沖縄ツーリストは、原告に対し、金七八五九万二八〇〇円とこれに対する昭和五一年三月三〇日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

(五) 全事件

訴訟費用は被告の負担とする。

(一)ないし(四)について仮執行宣言。

2  予備的請求の趣旨

(一) 第九九号事件

被告東武トラベルは、原告に対し、金二一三〇万七〇〇円とこれに対する昭和五二年九月二二日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

(二) 第一〇〇号事件

被告読売旅行は、原告に対し、金二八六七万五六〇〇円とこれに対する昭和五二年九月二二日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

(三) 第一〇一号事件

被告日本エアーツーリストは、原告に対し、金九三九七万四一〇〇円とこれに対する昭和五二年九月二二日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

(四) 第一〇四号事件

被告沖縄ツーリストは、原告に対し、金七八五九万二八〇〇円とこれに対する昭和五二年九月二二日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

(五) 全事件

訴訟費用は被告の負担とする。

(一)ないし(四)について仮執行宣言。

二  主位的及び予備的請求の趣旨に対する各被告らの答弁(全事件につき共通)

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  主位的請求原因

1  訴外財団法人本部海洋開発協会(以下、財団という。)は、昭和五〇年七月二〇日から沖縄県国頭郡本部町で開催された沖縄国際海洋博覧会の見学者等を宿泊させるために、本部町字豊原に宿泊可能人員約二〇〇〇名の簡易宿泊施設モトブシーサイドプラザ(以下、シーサイドプラザという。)を建設し、その運営に当ってきたが、財団は昭和五〇年七月末、約束手形の決済が不能となり、事実上倒産した。

2  右財団の倒産により、財団の債権者中、シーサイドプラザの建築工事部門を請負った会社及びその従業員ら一五名において、昭和五〇年八月一日、沖縄市在パレス会館で、訴外シーサイドプラザ運営株式会社(以下、訴外会社という。)を設立した。

これは、いわゆる設立手続中の会社であり、右パレス会館では、商号、目的、本店所在地、授権資本額、一株の金額、資本金、取締役及び監査役の員数、決算期、発起人及び募集により株式を引受ける者、それらの者が引受ける株式数、役員等について取決めがなされ、さらに会社代表者に訴外仲本興成(以下、仲本という。)を選任したが、その後定款作成を経て、昭和五〇年八月二八日付で設立登記がなされた。

3  訴外会社は、昭和五〇年一一月二五日午後五時、那覇地方裁判所から破産宣告を受け、原告が破産管財人に選任された。

4  (訴外会社と被告らとの宿泊契約)

(一) 被告らは旅行代理店業を営むものであるが、昭和五〇年八月一日から同年一一月二六日までの間に、主として海洋博覧会見学を目的とした旅行客を募集し、訴外会社に宿泊を申し入れてシーサイドプラザに宿泊させた。

被告らは、財団が事実上倒産し訴外会社がシーサイドプラザを運営していることを知りながら宿泊客を送り込んだものであり、以下のとおり訴外会社が被告らに対して、被告らと財団との間の宿泊契約における宿泊代金と同額の宿泊代金を訴外会社に支払うよう通告したことに対しても異議を述べなかったものであり、以下の支払通告の各時期に被告らと訴外会社との間に黙示的に包括的な宿泊契約が締結されたものである。

(1) 昭和五〇年八月三日頃、訴外仲本は、当時那覇市にあった被告らの営業所の各責任者に対して、また、シーサイドプラザ内に駐在していた被告らの社員を通じて、シーサイドプラザは訴外会社が経営することになったので、被告らが財団に交付した前渡金とは無関係に被告らの送客にかかる宿泊代金を訴外会社に支払うよう、通告した。

(2) 同月一〇日頃、右仲本において、シーサイドプラザ内に駐在していた被告らの社員を通じて右と同様の通告をした。

(3) 同月一六日頃に訴外会社の代表者に就任した訴外呉屋秀信(以下呉屋という。)は、同月二〇日頃、従業員の訴外三浦捷之をして、那覇市にあった被告らの各営業所に赴かせ、右と同様の通告をさせた。

(二) 仮にそうでないとしても、右のような財団の倒産と被告らに対する訴外会社の前記通告の事情のもとで、被告らは昭和五〇年八月二日から訴外会社の破産宣告に至るまでシーサイドプラザに宿泊客を送って宿泊の申込みをなし、訴外会社はこれを受諾して宿泊させたものであり、宿泊の都度訴外会社と被告らとの間で宿泊契約(被告らと財団との間に取り決められたと同額の宿泊代金による)が締結された。

5  (宿泊代金額)

被告らの昭和五〇年八月一日から同年一一月二六日までの宿泊代金額は次のとおりであるが、被告沖縄ツーリストについては、そのうち四五〇〇万円の弁済を受けた。

被告名

総額

そのうち昭和五〇年八月一日

から同月二七日までの代金

東武トラベル

二一三〇万七〇〇円

四四一万五七〇〇円

読売旅行

二八六七万五六〇〇円

五七九万四一〇〇円

日本エアーツーリスト

九三九七万四一〇〇円

二二七二万七九〇〇円

沖縄ツーリスト

一億二三五九万二八〇〇円

三四八一万七〇〇〇円

6  よって、原告は、被告らに対し、宿泊契約に基づいて、前記各宿泊代金(但し、被告沖縄ツーリストについては弁済を受けた分を除いた金員)及びそれらに対する各訴状送達の翌日(被告東武トラベル及び被告読売旅行については昭和五一年三月二八日、同日本エアーツーリストについては同月一三日、同沖縄ツーリストについては同月三〇日)から各完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  予備的請求原因

1  仮に訴外会社と被告らとの間に前記宿泊契約が認められないとするならば、被告らは、その送り込んだ旅行客を昭和五〇年八月一日から同年一一月二六日までの間、訴外会社が経営主体であるシーサイドプラザに宿泊させ、前記主位的請求原因5記載のとおりの宿泊代金相当額につき法律上の原因なくして利得し、一方、訴外会社は右同額の損失を受けたものである。

2  よって、原告は、不当利得に基づいて、被告らに対し、右各宿泊代金相当額(但し、被告沖縄ツーリストについては弁済のあった四五〇〇万円を差し引いた七八五九万二八〇〇円)及びそれらに対する各催告の日(本件第一四回口頭弁論期日)の翌日である昭和五二年九月二二日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

三  各請求原因に対する認否

1  主位的請求原因に対して(全被告)

(一) 請求原因1、3は認める。但し、財団は昭和五〇年八月二七日(訴外会社設立の前日)までは、シーサイドプラザを運営していた。

(二) 同2中、訴外会社設立の事実及び設立登記が昭和五〇年八月二八日になされた事実は認めるが、設立時期が昭和五〇年八月一日であるとの主張は争う。その余は不知。

訴外会社が設立されたのは、設立登記がなされた昭和五〇年八月二八日である。また、設立中の会社といいうるためには、最低限、発起人によって定款が作成され、かつ発起人が一株以上の株式を引受けることが必要であり、訴外会社に関しては、発起人等による株式の引受がなされた昭和五〇年八月一二日以後設立中の会社が成立したといえる。

(三) 同4は否認する。

訴外会社の関係者と被告らとの間において、原告主張の日時頃、次のとおりの話し合いがなされた事実はあるが、これは宿泊契約の申し込みないし承諾に該るものではない。

(1) 仲本は昭和五〇年七月下旬頃、被告東武トラベル那覇出張所に新会社設立の挨拶に来たが、その際、右出張所の橋本所長は、財団に宿泊代金の前払いをしてある事実を告げ、仲本は、右前渡金分を超える送客依頼をした。また、仲本が同年八月二、三日頃、被告読売旅行及び同日本エアーツーリストの那覇営業所に右同様の挨拶に来たことがあるが、その際、仲本は、財団との契約上の予定数を上廻る送客依頼をしたにすぎない。

(2) 同月一〇日頃、財団支配人木下睦雄(以下、木下という。)から被告東武トラベル、同読売旅行、同日本エアーツーリストの那覇営業所にシーサイドプラザに来てほしい旨の電話があった。そこで、東武トラベルの朝比奈駐在員がシーサイドプラザに赴いたところ、木下から訴外会社のスタッフとして仲本及び比嘉智夫を紹介され、右仲本らから財団との契約上の予定数を上廻る送客依頼を受けた。

(3) 同月二〇日頃、訴外会社従業員三浦捷之が被告らの那覇営業所を訪れたことはあるが、訴外会社営業部長の就任挨拶にきたものにすぎない。

(被告らの主張)

被告らは、財団との宿泊契約に基づいて、シーサイドプラザに送客したものである。

右宿泊契約の内容は次のとおりである。

(1) 契約日は被告東武トラベル、同読売旅行、同日本エアーツーリストは昭和五〇年四月二六日、被告沖縄ツーリストは同年五月二〇日

(2) 財団は被告らが送る客をシーサイドプラザに宿泊させ、被告らは宿泊代金を財団に支払う。

(3) 宿泊期間は、被告東武トラベルについては昭和五一年一月三一日まで、被告読売旅行、同日本エアーツーリストについては双方の協議で決めるものとし、被告沖縄ツーリストについては同月二〇日までとする。

(4) 宿泊代金の支払い方法は、次のとおり。

(イ) 被告東武トラベル

契約時に金一五八〇万円を支払い、昭和五〇年五月三一日に額面七八五万円の約束手形五通を財団に振出し交付するものとし、宿泊代金清算期日を昭和五一年一月三一日とする。

(ロ) 被告読売旅行

契約時に二〇〇〇万円を支払い、昭和五〇年五月二〇日と同年七月二〇日に額面八〇〇万円の約束手形計五通を財団に振出し交付するものとし、宿泊代金の清算期日を昭和五一年二月一〇日とする。

(ハ) 被告日本エアーツーリスト

昭和五〇年四月二八日に額面二〇〇〇万円の、同年五月二六日に額面三〇〇〇万円の、同年六月二〇日に額面四〇〇〇万円の各約束手形をそれぞれ振出し交付し、同年四月三〇日に一〇〇〇万円、同年六月三〇日に五〇〇万円、同年七月二五日に二五〇万円をそれぞれ支払うものとし(計一億七五〇万円)、清算期日は海洋博終了後に協議のうえ定めるものとする。

(ニ) 被告沖縄ツーリスト

昭和五〇年四月三〇日に額面一〇〇〇万円の、同年五月三一日に額面一〇〇〇万円の、同月二二日に額面五〇〇万円の各約束手形(五〇〇万円の分は六通)を振出し交付した(計五〇〇〇万円)。右前渡金は、昭和五〇年八月に九〇〇万円、九月に九〇〇万円、一〇月に一五〇〇万円、一一月に一〇〇〇万円、一二月に七〇〇万円の振合いで宿泊代金の一部に充当する。

被告らは、右のとおり財団に対して宿泊代金の前払いをなし(これを、以下、前渡金という。)、昭和五〇年八月二七日までは財団に対し、同月二八日以降は財団の宿泊契約上の地位を承継した訴外会社に対して、送客して、宿泊させたものである。

(四) 同5は認める。

2  予備的請求原因に対して(全被告)

請求原因1のうち、被告らが八月一日から一一月二六日までの間シーサイドプラザに送客したこと、その宿泊代金相当額の数額は認めるが、その余は争う。

四  抗弁

1  主位的及び予備的請求原因に対して(全被告)

訴外会社の設立登記がなされた昭和五〇年八月二八日以前においては設立中の会社が存在(それも昭和五〇年八月一二日以降において)したにすぎないのであり、設立中の会社には営業準備行為を超える営業そのものとしての活動能力はない。

2  主位的及び予備的請求原因に対して(全被告)

被告らは前記のとおり、財団との契約に基づいて財団に宿泊代金の前渡金を支払っており、以下に述べる理由で訴外会社は財団の被告らに対する右前渡金と宿泊代金との清算義務を承継しているから、被告ら訴訟代理人らは、昭和五一年一一月一六日午前一〇時の本件口頭弁論期日に、原告に対し、右前渡金返還請求権をもって本訴請求債権と対当額において相殺する旨の意思表示をした。

(一) 営業の譲り受けに基づく宿泊契約上の地位の承継

訴外会社は、財団の営業の全部、すなわち宿泊施設・備品及び什器等の物的資産、借地権、取引先、「モトブ・シーサイド・プラザ」なる商号、債権債務の一切のほか、財団と第三者との間の契約(例えば、敷地所有者との間の借地契約、テナント業者との間のテナント契約、リネン業者等との間の物品供給契約、従業員との間の雇傭契約等)上の地位を承継した。

被告ら旅行業者との間の宿泊契約も右と同様に承継されたから、訴外会社は被告らに対し前渡金清算義務を負っている。

(二) 合意に基づく宿泊契約又は清算義務の承継

(1) 訴外会社支配人木下睦雄は、昭和五〇年九月七日頃、訴外会社のためにすることを示して、被告らに対し、財団の被告らに対する宿泊契約上の地位を訴外会社成立時点に遡って引き受ける旨の申し込みをなし、被告らはこれを承諾した。そして、財団はこれを黙示的に承諾した。

そうでないとしても、右木下は右同日頃、被告らに対し、財団の被告らに対する前渡金と宿泊代金との清算義務を引き受ける旨申し込み、被告らはこれを承諾し、財団は黙示的にこれを承諾した。

(2) 仮に木下が訴外会社の法律上の支配人ではなかったとしても、訴外会社は木下に「支配人」なる名称を付与していたが、これは営業の主任者たることを示す名称であり、木下は表見支配人であった。

(3) 仮に右のいずれも理由がないとしても、訴外会社は木下に旅行業者との折衝、宿泊契約締結等の権限を授与し、木下は右権限内で前記の地位承継申し込み等をなしたものであり、これは商法四三条にいう「番頭、手代」等がその営業についてなした行為にあたるものである。

(4) 仮に木下の行為が全くの無権代理行為であったとするも、訴外会社代表者呉屋は、昭和五〇年九月一四日、財団の債権者会議において、訴外会社は被告らからの前渡金を清算する旨を発表することによって、木下の無権代理行為を追認したものである。

(三) 商号続用の営業譲受人の責任

財団は、当初営業活動を全く予想していなかったが、のち簡易宿泊施設の建設・運営を企て、右宿泊施設に「モトブシーサイドプラザ」なる名称を冠し、以後財団の対外的営業活動は「モトブシーサイドプラザ」なる名称のもとに行われた。よって、「モトブシーサイドプラザ」は営業に関する財団の名称であり、財団の商号である。

訴外会社は、財団から営業用財産・従業員等の一切を含めた営業の譲渡を受け、同一建物を使用し、「モトブシーサイドプラザ」の名称の入った看板・納品書・請求書用紙などをそのまま使用し、外観上経営主体の区別がつかない状態で宿泊施設としての営業活動を行ったものであるから、財団の商号を続用したものというべきであり、商法二六条一項により責任を免れない。

また、訴外会社の商号が「モトブシーサイドプラザ」でなく「シーサイドプラザ運営株式会社」であるとしても、やはり商号続用にあたり、右の責任を免れない。

(四) 債務引受の広告をした営業譲受人の責任

前述のとおり、訴外会社は財団の営業を譲り受けたものであるが、

(1) 設立中の訴外会社の代表者呉屋は、昭和五〇年八月二六日、記者会見をなし、「今後はシーサイドプラザを健全に運営し、未払い金の返済を終えた段階で、運営会社は解散させたい。」旨、発表し、これを翌二七日の新聞紙上で大々的に報道させることにより、訴外会社が財団の営業により生じた債務を引き受ける旨、広告した。

また、呉屋は、右記者会見において、「旅行業者からの前受金は会期中で処理する」旨発表し、これを翌二七日の新聞紙上で報道させ、訴外会社が財団の旅行業者に対する前渡金清算義務を引き受ける旨、広告した。

(2) 昭和五〇年九月一四日、訴外金秀鉄工株式会社食堂において財団の債権者会議が開かれた後、呉屋は訴外会社において財団の債務を引き受けること等を発表し、財団債権者らはこれを承諾した。

呉屋は右会議後、記者会見をなし、「再建計画は軌道に乗り、債権処理(支払い分の弁済)を公平に行いたい。」旨発表し、翌一五日の新聞紙上で報道させ、財団の営業により生じた債務を訴外会社において引き受ける旨広告した。

また、同人は、右会議において、約七〇名の財団債権者の面前で、財団の旅行業者に対する前渡金清算義務を訴外会社が引き受ける旨発表した。これは商法二八条にいう広告にあたる。

(3) 営業譲受人が個別的に債務引受の意思表示をした場合には、その表示を受けた債権者に対しては弁済の責に任じなければならないと解されるところ、訴外会社は、被告東武トラベルに対しては、昭和五〇年一一月三日、「一〇月分の宿泊料清算(明細別記)」と記載した文書を、被告読売旅行に対しては、同月二日、「宿泊クーポン券精算(明細別紙)」、同月三日、「一〇月分宿泊料清算(明細別記)」と各記載した文書を、被告日本エアーツーリストに対しては、同年九月一二日、「西武トラベル確認書精算(明細別紙)」と記載した文書を、それぞれ発送し、被告沖縄ツーリストに対しては、同年一〇月二六日頃、同被告が財団に支払った前渡金を「デポ」として清算した宿泊代金計算書を交付して、被告らに対し個別的に、財団の被告らに対する営業上の債務を引き受ける旨の意思表示をなした。

(五) 禁反言

訴外会社は、財団により、宿泊施設・備品及び什器等一切の物的資産、借地権、取引先、商号、従業員等、営業の一切を譲り受け、また、訴外会社代表者がことあるごとに財団の営業上の債務を引き受けたことを発表しているにもかかわらず、原告が訴外会社は財団の営業上の債務を引き受けなかった旨主張することは、禁反言の原則に反し許されない。

3  主位的及び予備的請求原因に対して(被告沖縄ツーリスト)

被告沖縄ツーリストは、財団に対する前渡金五〇〇〇万円と訴外会社に対する支払額四五〇〇万円を合計して九五〇〇万円を支払っているが、なお、宿泊代金二八五九万二八〇〇円が未払いとなっている。

しかし、財団は、シーサイドプラザを、その施設不備(断水、停電、周辺の環境不整備等)のために、昭和五〇年七月二〇日から八月一〇日までの間閉鎖したものであり、財団の右債務不履行により被告沖縄ツーリストは次のとおりの損害を受けるに至ったが、訴外会社は抗弁2のとおり財団の右損害賠償債務を承継したものであり、被告沖縄ツーリスト訴訟代理人は、昭和五一年一〇月一九日午前一〇時の本件口頭弁論期日に、原告に対し、右損害賠償債権をもって原告の前記未払い金債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

なお、財団と被告沖縄ツーリスト間の宿泊契約には、規模縮小又は工事遅延の理由で被告沖縄ツーリストの旅客の宿泊が困難な状態に立ち至った場合、財団は責任をもって同一地域内にある同格以上の他の施設に斡旋しなければならず、そのため財団との契約料金以上の費用が生じた場合の差額及び被告沖縄ツーリストの費やした諸経費は財団が負担するとの約定があった。

(1) 被告沖縄ツーリストは、シーサイドプラザの前記閉鎖により、その期間中旅客を他の宿泊施設に宿泊させたが、宿泊代金は当初財団と契約した六〇〇〇円(一泊朝夕食付、税金、サーヴィス料を含めたもの)を超過することになり、この超過分は被告沖縄ツーリストが負担した。この状況は別表(一)のとおりであり、この差額の合計は一四八二万八六一〇円である。

(2) シーサイドプラザに送客ができれば、バスの使用は那覇・本部間の一回の往復で済んだのであるが、同施設利用不能の間、被告沖縄ツーリストは旅客を那覇市にある他の宿泊施設に宿泊させざるを得ず、そのため毎日顧客を那覇市から海洋博会場まで送迎するにあたり、バスだけでは間に合わず、カーフェリーをも利用することになったが、その状況は別表(二)のとおりであり、右交通費は計一二六一万九二五〇円である。

(3) 被告沖縄ツーリストと顧客との契約では、シーサイドプラザに宿泊し、昼食は海洋博会場内で自費でとることになっており、入場も一回の入場で晩まで会場内で観覧することとし、二日目は自由時間となっていたが、他の宿泊施設(殆んど在那覇市)に宿泊させざるを得なくなったため、海洋博会場を午後二時に引き揚げ、翌日も会場へ案内することになり、翌日分の入場料と昼食費を被告沖縄ツーリストが負担することになった。その状況は別表(三)のとおりであり、食事代及び入場料は計一四四二万七四〇〇円である。

(4) 結局、被告沖縄ツーリストは財団の債務不履行によって右(1)、(2)、(3)の合計四一八七万五二六〇円の損害を被った。

五  抗弁に対する認否

1  抗弁1は争う。

2  同2のうち、被告沖縄ツーリスト以外の被告らと財団との間で被告ら主張のような宿泊契約がなされたこと及びその主張のような前渡金の授受のなされたことは認める。被告沖縄ツーリストについては、その主張通りの金員を財団に交付したことは認めるが、それは前渡金ではなく、客室使用の予約金である。

同2(一)は否認する。訴外会社は、財団の実質的な倒産に際し、主としてシーサイドプラザの建設に関与した債権者らが、自己の債権確保のために設立したものである。シーサイドプラザが海洋博開催期間中一〇〇パーセントの稼働率を示したとしてもなお一〇数億円の債権が回収不能であることを知っていた訴外会社が、財団の債務は勿論、第三者に対する契約上の地位を承継することは全くあり得ない。

同(二)(1)ないし(4)は否認する。

訴外会社において木下を支配人に選任した事実はなく、その旨の商業登記もなされていない。さらに、同人には商業使用人としての商法上の支配人の権限も全くなかった。訴外会社が木下に旅行業者との折衝、宿泊契約締結等の広範な権限を付与していた事実はない。

無権代理行為の追認の主張については、昭和五〇年九月一四日、財団の債権者会議で承認された「旅行業者よりの前受金の清算」は、海洋博終了時点において訴外会社に利益が存在することを前提とするものであり、また、訴外会社が琉球銀行及び沖縄銀行から借り入れた二億円の返済が優先するとされていたのであるから、右債権者会議の承認事項が木下の無権代理行為の追認にならないことは明白である。

同(三)は争う。

同(四)の訴外会社が債務引受広告をしたとの主張は否認する。

昭和五〇年九月一四日の債権者会議における決議は、シーサイドプラザの運営から利益がでることを条件に、右利益の配分について取決めを行ったものである。

3  同3について、訴外会社が財団の訴外沖縄ツーリストに対する損害賠償債務を承継したとの主張は否認し、その余は不知。

第三証拠《省略》

理由

第一主位的請求について

一  主位的請求原因1(財団がシーサイドプラザを建設し運営に当ってきたが、昭和五〇年七月末に、振出した手形が不渡りとなり、事実上倒産した事実)、同3(訴外会社が破産宣告を受け、原告が破産管財人に選任された事実)の各事実、同2中、訴外会社が、財団債権者のうちシーサイドプラザの建築を請負った業者らによって設立され、昭和五〇年八月二八日(なお、以下において、同年中の日時は月日のみをもって表示する。)に設立登記がなされた事実及び同5(被告らが、八月一日から一一月二六日までにシーサイドプラザに送客した分の宿泊代金の数額及び被告沖繩ツーリストが訴外会社に四五〇〇万円の弁済をなした事実)の事実については当事者間に争いがない。

二  原告は、訴外会社と被告らとの間で黙示に包括的な宿泊契約が締結され、被告らはそれに基づいて八月一日から一一月二六日までの間、シーサイドプラザに送客したと主張するので、この点について検討する。

《証拠省略》によると、次のような事実が認められる。

財団は、昭和五〇年七月一九日に開幕する海洋博の観光客のための宿泊施設を建設することを計画し、右開幕に合わせて収容能力二〇〇〇人のシーサイドプラザを建設し運営するに至ったが、資金不足から七月三一日に不渡り手形を出し、事実上倒産した。そこで、財団の債権者のうち多数を占める(約二三億円の債務のうち、二〇億円以上を占める。)シーサイドプラザ建設を請負った建設業者ら(以下、建設関係債権者という。)は、自己の債権回収のため、財団に代わってシーサイドプラザを運営することを決め、その経営の主体として訴外会社を設立することとし、八月二日、発起人会議を開いて、商号、発行株式総数、一株の額面金額等を定め、合資会社仲本工業を発起人総代とし、同社をして定款の作成、株式の募集割当て、創立総会の招集等、訴外会社の設立に関する事務を執行させることとする一方、財団理事らと協議のうえ、シーサイドプラザの建物は債権者の名義で所有権保存登記を経たうえで訴外会社が使用すること、八月三日から訴外会社としての営業を開始すること、シーサイドプラザの従業員との雇傭関係は未払賃金債務をも含めて訴外会社が承継することを合意し、代表取締役に仲本興成、副社長に三善ハウス株式会社の小波津健、専務取締役に南株式会社の中尾繁晴、常務取締役に日本住工株式会社の三浦捷之という人事を決定した。

かくして、八月四日に定款が作成され、同月一二日には各発起人において、二〇〇株ずつの株式を引受け、同月二六日に創立総会が開催され取締役の選任等がなされ(なお、仲本は取締役に選任されなかった。)、同日の取締役会で呉屋が代表取締役に選出され、同月二八日に訴外会社の設立登記がなされて、訴外会社が設立されたが、訴外会社としては財団の債務を承継したのでは訴外会社の運営がままならないため、未払従業員給料、電気料、水道料のほかは財団の債務は承継しないこととし、その旨財団の理事との間でも合意がなされていた。

ところで、財団は、旅行業者のうち被告ら四社から多額の前渡金を受領していたものであるが、訴外会社の宿泊代金を財団への前渡金で清算されたのでは訴外会社によるシーサイドプラザの運営が立ち行かないため、仲本は、八月三日頃、被告沖繩ツーリストを除くその余の被告らの那覇営業所に赴き、各営業所長に対し、シーサイドプラザは今後訴外会社において運営することになり、自分がその代表取締役であること、宿泊代金は財団に対する前払金と関係なく現金で宿泊の都度訴外会社に支払って貰いたいこと、送客数を増加して貰いたい旨及びもし前払金との清算を望むのであれば財団との契約上の送客義務を上廻る数の客を送ってくれれば、その超過分について前払金との差引清算を認める旨の申し入れをしたが、被告東武トラベルの橋本令暉所長は、財団との宿泊契約書の写しを仲本に見せたうえ、前渡金を財団に支払っている旨を告げ、現金払いの要請を拒絶するとともに財団に対するものとして送客する旨を明らかにし、他の被告らの各営業所長においても同様の応待をして、要請を拒絶した。

八月一〇日ないし一三日頃、訴外会社の支配人木下睦雄から被告東武トラベル及び同読売旅行の那覇営業所に対し、シーサイドプラザへの招請があり、東武トラベルの駐在員が赴いた際、仲本は、同駐在員に対し、現金が入らなければシーサイドプラザの運営は不能であるとして、現金決済及び財団との契約数以上の送客を強く要請したが、駐在員は会社上層部との交渉をするように求めて、承諾をしなかった。

かくして、被告ら各旅行会社は、一向に現金決済をしないまま、送客をしたので、八月一四日、仲本は電話で、被告日本エアーツーリストに対し、現金決済をしないことを強くなじり、現金決済をしないのであれば送客を中止するよう求めたが、被告日本エアーツーリストでは生返事をするだけであった。

以上に対して仲本は、被告沖繩ツーリストが他の被告と違って沖繩県内の旅行業者であり、その代表者東良恒とも信頼関係を有したところから、良識的な解決がなされるものと期待して、同被告に対しては特別の申し入れをしなかった。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

以上の事実によると、訴外会社が権利能力を取得した時期及びこれとめ関連で仲本の行為が何時から訴外会社に対して法律上の効果を及ぼし得たかの検討は暫く措くとして、仲本の前記八月三日頃から同月一四日に至る間にした被告三社に対する申し入れは、訴外会社としての基本宿泊契約の申し込みであったものというべきであるが、被告三社の那覇営業所長らは右申し込みに対して拒絶の意思表示をしたものであり、また被告沖繩ツーリストに対しては仲本が右の申し込みをしなかったものであるから、八月三日ないし一〇日頃に被告らとの間で新規に包括的な基本宿泊契約が成立したとは認めることができず、原告は、八月二〇日頃訴外会社の営業部長三浦捷之を那覇市にある被告らの営業所に赴かせた際同様の契約が成立したとも主張するけれども、《証拠省略》によれば、三浦がそのころ被告らの那覇営業所を訪問した事実が認められるとはいうものの、その際同人は営業部長就任の挨拶をしたにとどまるのであって、同人が仲本と同様の申し込みをした事実を認むべき証拠はなく、原告の右主張も採用することができない。

原告はまた、被告らシーサイドプラザに送客して訴外会社が宿泊させた都度、個別的に宿泊契約が締結されたと主張する。

しかし、被告らが財団との間でその主張の如き基本宿泊契約を締結していたことは、被告沖繩ツーリストを除くその余の被告らについては当事者間に争いがなく、被告沖繩ツーリストについては《証拠省略》によって認められるところであり、前認定の事実に《証拠省略》を総合すると、被告らはいずれも財団との右契約に基づきその契約の実行として送客したものであり、且つそのことは被告沖繩ツーリストを除くその余の被告らについては訴外会社に対して明示されていたことが認められるので、この事実からすれば、宿泊の都度被告らと訴外会社との間に個別的に宿泊契約が成立したとは認め難く、他にこれを認めるに足る証拠も存しないから、原告のこの主張も採用し得ない。

三  よって、その余を判断するまでもなく主位的請求は理由がない。

第二予備的請求について

一  被告らが、八月一日から一一月二六日までの間、シーサイドプラザに旅行客を送って宿泊させたことは当事者間に争いがなく、これによる宿泊代金相当額が原告主張のとおりであることも当事者間に争いがない。

そうすると、訴外会社と被告らとの間に包括的な基本宿泊契約が成立しなかったこと、また、個々の宿泊の都度個別的な宿泊契約が成立したとも認められないこと前叙のとおりである以上、前記期間中シーサイドプラザの経営によって生じた債権債務の帰属主体が訴外会社であったとする限り、被告らは訴外会社に対する関係では法律上の原因なく宿泊代金相当額を利得したことになり、訴外会社は同額の損失を被った筋合いとなる。

二  そこで、前記期間中のシーサイドプラザの経営主体について判断するに、財団に対する建設関係債権者がシーサイドプラザ経営のため訴外会社を設立したことは前認定のとおりであるが、さらに、《証拠省略》を総合すると、シーサイドプラザの経営主体が財団から訴外会社に移行する経過は、次のとおりであったことが認められる。

財団は、総資産僅かに三〇五万円しかなく、シーサイドプラザの建設にあたっては、海洋博開幕後の宿泊料収入によって建設関連費用及び運営費用の一切をまかなう計画であったため、建設関連の債権者に対して、約束手形や先日付小切手を渡して建設工事を推進していたが、七月三一日を支払期日とする手形等の決済の見込みがつかず、その一方ではシーサイドプラザの施設も未完成であったため、同月二二日頃から建設関係債権者と財団の理事との間でしばしば会合をもって善後策を協議していた。当初は、新規の出資者の加入を得て財団の資力充実を図り、建設関係債権者は、財団の運営監視のため理事を送り込むほか、宿泊施設に抵当権を取得して手形のジャンプに応ずるなどの案も検討されたが、七月一九日の海洋博開幕後、翌二〇日には、設備未完成による宿泊客や旅行業者の苦情のため、シーサイドプラザを閉鎖するのやむなきに至ったうえ(世界海洋青少年大会の参加者への宿泊提供のみは継続された。)、七月三一日には約六〇〇〇万円の手形不渡りを生じて、財団は運営資金すら払底し、もはやシーサイドプラザの再開を望み得ない事態に立ち至った。そこで、財団の理事らは、一方では、シーサイドプラザ閉鎖による従業員の未払給料の焦げつき、観光客の受け入れ態勢の混乱、関連倒産の発生への憂慮と、他方では、シーサイドプラザを再開して運営した場合に宿泊客が一定の見込み数に達しさえすれば一定の利益(とはいっても、計画どおりの集客が実現しても会期末で一〇億円の赤字を生ずる計算であったから、焼石に水ともいうべき利益ではあったが。)を生ずる見込みがあり、且つシーサイドプラザを宿泊場所として七月一五日から八月一五日まで開催中の世界海洋青少年大会を成功させた場合には海洋博閉幕後船舶振興財団から補助金の給付が得られる期待もあったため、座して破産を待つよりも、シーサイドプラザの人的物的設備一切を建設関係債権者に委付して、これら債権者によりシーサイドプラザを整備し再開のうえ運営させ、運営による利益から建設関係債権者の二〇億円を超える債権への弁済充当をするに如くは無しとの方針を固め、建設関係債権者も、右のような諸般の事情からすれば右のほかに執るべき方策はなしとして、これに同意した。右の話合いは、七月末から八月二日にかけてなされ、八月二日をもって細部の検討も終ったが、建設関係債権者としては、財団の債務をそのまま承継したのではたちまち運営が行き詰まること必至のため、別会社を設立して、財団の債務のうち未払賃金、電気料及び水道料のほかは承継せず、運営による利益を会社の出資者たる建設関係債権者のみに配分することとし、財団の有する一切の設備・物品及び従業員との雇傭関係を何らの対価なしにそのまま利用して、海洋博閉幕までの間シーサイドプラザを運営することを決定し、同日中にその旨財団理事らの同意を得た。

かくして、訴外会社設立の方針が定まり、八月二日中に、前認定のとおり役員人事も決定され、翌三日からシーサイドプラザを訴外会社の名義と計算とにおいて運営することも合意されたので、訴外会社の発起人総代たる合資会社仲本工業の代表者であり、且つ訴外会社の代表取締役に就任予定の仲本は、八月三日、シーサイドプラザにおいて、従業員を集め、同日以降訴外会社としてシーサイドプラザを運営すること及び自己が訴外会社の代表取締役である旨を告げ、一方旅行業者に対しては前認定のとおりの交渉をするなどして、同日から訴外会社としてのシーサイドプラザ運営を開始した。

仲本は、訴外会社のために、私財七〇〇万円を投じて、未整備の構内工事や水道工事の費用及びシーサイドプラザの運営費用に充て、その結果シーサイドプラザは八月三日以降観光客の宿泊業務を継続することができたが、被告東武トラベル、同読売旅行、同日本エアーツーリストの三社は、前認定のとおり仲本の要請を拒絶し、前渡金との相殺を主張して、宿泊代金の現金払いをせず、また訴外会社の設立手続も意の如く進まなかったので、仲本は、出費の増大を懸念し、訴外会社の代表取締役に就任することを辞退し、八月一四日限りその地位を建設関係債権者たる金秀鉄工株式会社の代表者である訴外呉屋秀信(以下、呉屋という。)に引き継ぎ、のちに訴外会社から七〇〇万円の支払を受けた。

呉屋は、八月一四日以降、仲本のあとを継いで訴外会社の代表取締役を称し、仲本と同様にシーサイドプラザ運営の衝に当り、前認定の如く訴外会社の設立登記経由により、真実の代表取締役となった。

ところで、八月二日以前の財団の運営は、理事長玉城利清以下、副理事長仲宗根忠一、常務理事与儀実男、営業部長山口弘一、次長金指明典らによってなされていたが、シーサイドプラザの運営主体の交替に伴い、前認定の代表取締役仲本興成(のちには呉屋秀信)、専務取締役財務部長中尾繁晴、常務取締役伊波弘、常務取締役営業部長三浦捷之らが、取締役総務部長比嘉智夫、社長室長野崎真昭らとともに、これに当るようになったもので、訴外会社は、人的構成の面でも財団とは全く異なるものであった。

以上のとおり認定できる。

右に認定したところによれば、財団は、シーサイドプラザ運営事業を訴外会社に引き継いだものであり、八月三日以降財団はシーサイドプラザの経営主体ではなくなったものというべきであるが、訴外会社設立登記の日は前叙のとおり八月二八日であるから、右八月三日以降八月二七日までのシーサイドプラザ運営に伴う法律関係がそのまま直ちに訴外会社について効果を生じたということはできない。

しかしながら、株式会社の設立前にも、発起人は、設立中の会社の機関として権利又は義務を取得又は負担し得、右権利義務は株式会社設立によって当然に当該会社に帰属するに至るのであり、この理は、会社設立のために必要な行為に限定して適用されると解されてはいるが、発起人が設立前の株式会社の代表取締役と称してした営業自体に属する行為の効果は、法律上はいったん発起人個人に帰属したのち(債務については民法一一七条の類推適用が可能であるが、債権については同旨の規定がない。しかし、本件におけるような、意思表示に基づかず法律の規定によって生ずる不当利得返還請求権が、発起人個人に取得されるのは、当然のことである。)、会社の設立に伴い、明示又は黙示に会社に移転されることによって、設立後の会社に承継されうるものである。

これを本件についてみるに、前認定の事実によれば、仲本は、八月三日以後、未設立の訴外会社代表取締役の名のもとに、自己の出捐において、シーサイドプラザを運営し、同月一四日その地位を呉屋に譲って退いたのちは、呉屋において仲本と同様にシーサイドプラザを運営し、その後呉屋を代表取締役として訴外会社が設立され登記されたのであって、且つ仲本は、のちに訴外会社からその出捐にかかる七〇〇万円の補填を受けたものであるから、仲本及び呉屋がそれぞれ発起人として取得した被告らに対する不当利得返還請求権はすべて訴外会社に譲渡されたものと認めるのが相当である。しかして、債権譲渡の対抗要件たる債務者への通知又は債務者の承諾の要否については、会社の設立という社団法上の特殊な事態限りの問題であり、且つ債務者としては、設立中の会社の代表者名義で取引がなされるため、設立後の会社に法律効果が帰属するに至るべきことを予期している場合でもあるから、必ずしも発起人からする譲渡通知がなくても、債務者にとって、債権が設立後の会社に承継されたことが了知されれば足りるものと解すべきところ、《証拠省略》を総合すれば、被告らは、八月三日以後仲本ついで呉屋が訴外会社名義でシーサイドプラザを運営し、訴外会社設立後は訴外会社がこれを運営していることを知悉していたもので、右仲本及び呉屋がそれぞれ運営していた当時の宿泊代金をそれ以後の分と一括して訴外会社から請求された事実が認められるから、債権が訴外会社に承継されたことを了知したものということができ、結局、八月三日以降のシーサイドプラザ運営によって生じた宿泊代金又はこれに相当する不当利得返還請求権は、すべて訴外会社がこれを有するに至ったものということができる。

しかして、その数額は、原告の請求額から八月一日及び二日の分の宿泊代金相当額を減じたものとならなければならず、《証拠省略》によれば、八月一日には被告日本エアーツーリスト関係の宿泊客が一四三名、同沖繩ツーリスト関係のそれが二二六名、八月二日には同日本エアーツーリスト関係のそれが一九九名、同沖繩ツーリスト関係のそれが二六六名であり、その一人あたり宿泊代金相当額は、《証拠省略》により、被告日本エアーツーリストにつき一人七五〇〇円、同沖繩ツーリストにつき一人六〇〇〇円であるから、主位的請求原因5記載の各被告に関する金額のうち、被告東武トラベル及び同読売旅行についてはそのままの数額、同日本エアーツーリストについては二五六万五〇〇〇円を差し引いた九一四〇万九一〇〇円、同沖繩ツーリストについては二九五万二〇〇〇円を差し引いた一億二〇六四万八〇〇円となり、右各数額について訴外会社が不当利得返還請求権を有することになる。

そうすると、予備的請求原因は右の限度で理由があり、被告らの抗弁1によっても予備的請求の一部を棄却すべきものとはなし難い。

三  そこで、被告らの抗弁2について判断する。

1  被告らが財団との間でその主張の如き基本宿泊契約を締結していたことは前認定のとおりであり、また、被告らが右契約に基づき財団に対しその主張どおりの前渡金を交付したことも、各当事者間に争いがない。被告沖繩ツーリストは、右交付金額を客室使用のための予約金であると主張するけれども、《証拠省略》によれば、右金員は同被告がシーサイドプラザに宿泊させた観光客の宿泊代金との差引きにより清算することが財団との間で約定されていたことが認められるので、他の被告らの前渡金と同様の性質を有する金員であるといえる。

2  営業の譲り受けに基づく宿泊契約上の地位の承継の主張について

シーサイドプラザの運営を訴外会社が財団から引き継ぐにあたり、財団の理事らと訴外会社の実質上の構成員たる建設関係債権者らとの間の話合いで、宿泊施設等の建物は建設関係債権者の名義で所有権保存登記をしたうえで訴外会社が使用し、海洋博閉幕時まで訴外会社の名義と計算においてシーサイドプラザの営業をすること、シーサイドプラザの従業員との雇傭関係を訴外会社が承継すること、訴外会社は未払賃金、電気料及び水道料を除き財団の債務を承継しないこと、財団の有する設備及び物品(消粍品を含む)はすべて無償で訴外会社が使用することが約定されていたことは前叙のとおりであるが、さらに、《証拠省略》によれば、財団の理事らは、八月二日、建設関係債権者に対し、財団の債務については各理事が私財をなげうって責任をとる旨を表明したこと、右の時点で建設関係債権者らは財団から殆んど全くといっていいほど弁済を受けていなかったこと、建物の敷地の賃借権については承継の話合いはなされず、また賃借権譲渡又は転貸の承諾を得る手続もふくまれなかったことを認めることができる。

これらの事実を総合すると、宿泊施設等の建物の所有権は、財団にはなく、建物建設を請け負った建設関係債権者に当初から属していたものとみられるし、その他の設備及び物品(食料その他の若干の消粍品は別として)も単に使用貸借の目的としたにすぎないので、営業譲渡で中心的意義をもつ営業用財産の譲渡という要件に欠けるかに見えないでもなく、また、シーサイドプラザ運営の終期を海洋博閉幕時としていることからすると、将来の返還が予定されているかのようで、設備及び物品を譲渡せずに無償使用にとどめている点及び債務を原則として承継しないものとしている点からしても、営業の譲渡ではなく、経営の委任又は営業の使用貸借というべきではないかとの疑問もないではない。しかしながら、シーサイドプラザ運営による利益は、訴外会社において、建設関係債権者に対する財団の債務の弁済に充てるという形での自由な処分(これは財団に対する関係でも義務というには当らない。訴外会社はすなわち建設関係債権者にほかならないのであるから、単なる自由処分とみるべきである。)が予定されており、これを他の目的に使用することが格別禁止されてはいなかったことからすれば、経営の委任には当らないというべきであるし、営業の使用貸借か営業の譲渡かの判断は微妙ではあるが、財団においてシーサイドプラザを海洋博閉幕後も維持し運営する計画であったと認めるに足る証拠はないので、訴外会社が海洋博閉幕時までのシーサイドプラザの経営権を取得したということは、シーサイドプラザの経営権を財団に返還することが予定されていなかったというのに等しく、返還なき貸借は譲渡と区別する実益に乏しいと解される。

しかして、前掲各証拠のほか、《証拠省略》を総合すれば、設立中の訴外会社の代表者である仲本及び仲本の後を継いだ呉屋は、八月三日以降、従来どおりのシーサイドプラザの運営機構の中に債権者側の若干のスタッフとともに入り込み、八月二日以前に財団が取得した宿泊代金債権をも訴外会社の名において請求し、財団が有した旅行業者や物品供給業者との取引関係をそのまま継続し、従業員との雇傭関係や若干の流動資産をそのまま引き継いで、シーサイドプラザを経営した事実が認められ、シーサイドプラザの営業を目的として組織され、有機的一体として機能していた有形無形の資産は一体として譲渡され、営業的活動の全部が譲受人に受け継がれたものといえるから、財団から設立中の訴外会社の発起人たる仲本に対する営業譲渡が存在したものというべきである。しかして、八月一四日になされた仲本から呉屋への引継ぎと八月二六日の訴外会社設立により、右営業は訴外会社に移転するに至ったとみるべきことはいうまでもない。

ところで、被告らは、右営業譲渡によって、財団の有した被告ら旅行業者との基本宿泊契約及びこれに基づく財団の債務も訴外会社に承継された旨主張するのであるが、営業譲渡にあたり特別の留保により特定の財産を移転の対象外とすることは可能であり、財団の被告ら旅行業者に対する前受金清算義務を仲本、したがって呉屋及び訴外会社が承継しなかったことは前認定のとおりである。

したがって、被告らの右主張は理由がない。

3  合意に基づく宿泊契約又は清算義務の承継の主張について

被告らは、設立後の訴外会社の支配人木下睦雄が、九月七日頃、被告らとの間で、訴外会社を代理して、財団の被告らに対する基本宿泊契約上の地位又は前渡金返還義務を引き受けた旨主張し、木下の代理権限に関して、支配人、表見支配人、商法四三条の特定事項の代理権を有する使用人又は九月一四日の訴外会社代表取締役による追認を主張する。

よって、この点について判断するに、《証拠省略》によると、木下と三浦らは、九月初旬に、東京都にある被告東武トラベル、同読売旅行、同日本エアーツーリストの各本社を訪問し、訴外会社における地位職各を記した各自の名刺を交換するとともに、シーサイドプラザ開設当初の施設の不備を陳謝し、今後とも、より一層の送客を依頼する旨述べたことが認められるが、その際、両名らが訴外会社において右前渡金清算義務ないし宿泊契約上の地位の承継を約した旨の証人荻野一男の証言は、《証拠省略》と対比して信用できず、他に木下が被告ら主張の内容の合意をしたことを認めるに足る証拠はない。

よって、被告らのこの主張は、その余を判断するまでもなく理由がない。

4  商号続用の営業譲受人の責任の主張について

商号とは、商人が営業上の活動において自己を表示するために用いる名称である。

本件においては、商人たる「財団法人本部海洋開発協会」において、その運営していた宿泊施設に「モトブシーサイドプラザ」なる名称を付していたものであるが、「モトブシーサイドプラザ」は施設名であって、それを運営する商人たる財団の名称とはいえず、財団の商人としての商号が「財団法人本部海洋開発協会」であることは、《証拠省略》に照らしても明らかである。

そうすると、営業譲渡人の右商号と営業譲受人たる訴外会社の商号「シーサイドプラザ運営株式会社」との間には同一性がないことに帰着するが、仮に「モトブシーサイドプラザ」が財団の商号であるとしても、「シーサイドプラザ運営株式会社」なる名称は、宿泊施設シーサイドプラザの経営主体の変動を印象づける名称であって、「モトブシーサイドプラザ」との間に同一性を認めることはできないから、その余を判断するまでもなく、被告らの商法二六条に関する主張は理由がない。

5  債務引受の広告をした営業譲受人の責任の主張について

訴外会社が、財団から、仲本及び呉屋を経てシーサイドプラザの営業を譲り受けたこと、しかし、訴外会社が財団の商号を続用したものとはいえないことはいずれも前叙のとおりである。

そこで、呉屋が財団の債務引受の広告をした旨の被告らの主張について判断するに、《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

被告ら旅行業者に対する財団の前渡金清算義務を承継せず、いわば旅行業者から宿泊代金を二重取りしてシーサイドプラザを運営しようとする仲本、呉屋らの方針に対しては、もともとシーサイドプラザの幹部従業員からの内部批判も強かったが、当の被告ら旅行業者からの強硬な反撥があり、現実に被告らからは現金による決済がなされず、シーサイドプラザの運営は日増しに困難の度を加えていたところへ、八月中旬以降、被告らが観光客の相当部分の宿泊先を他の宿泊施設に振り向ける動きも出て、シーサイドプラザの先行きの見通しは明るくないものがあった。かてて加えて、建設関係以外の債権者から、それらの債権の弁済方針に対する問合せも多数なされていたところへ、八月中旬頃、建設関係債権者の方針に不満をもつベッドの納入業者や客室用クーラーの納入業者がトラック多数台を従えてシーサイドプラザに乗りつけ、財団への納入商品であるベッドやクーラーを引き揚げようとする事件があり、食料品納入業者からも財団の債務を弁済しない限り今後の納入に応じないとの態度表明もあるなど、建設関係債権者だけでシーサイドプラザ運営による利益を分配する方針を強行すれば、他の債権者との間に摩擦を生ずるだけでなく、最悪の場合には海洋博閉幕前にシーサイドプラザの瓦解を招き、沖縄の経済界に多大の混乱を引き起こしかねないことが明瞭になってきた。

そこで、仲本から地位を引き継いだ呉屋は、シーサイドプラザを存続させるためには、当初の訴外会社発足の目的を変更せざるを得ないことを決意し、とりあえず運営資金を確保する必要とそのためには訴外会社に公的な性格をもたせる必要から、訴外会社の代表取締役に正式に就任するための前提条件として、県知事が呉屋の就任を要請すること及び既に呉屋において一部立替支出中のシーサイドプラザ運営資金として二億円を県の斡旋により公的機関又は金融機関から訴外会社に融資を得ることの二点を県当局に申し入れたところ、シーサイドプラザの閉鎖による県経済界及び海洋博への悪影響とシーサイドプラザの従業員の処遇が社会問題化することを憂慮する県当局は右の要請を受諾し、八月二六日、屋良沖繩県知事が呉屋に対し右就任を要請するとともに、金融機関に対しても訴外会社の融資を要請し、その結果、琉球銀行及び沖繩銀行から各一億円の融資がなされることになった。

かくして、呉屋は、建設関係以外の債権者らの前記圧力に対する対策として、また、県当局の要請という大義名分により訴外会社がシーサイドプラザを運営することが可能になったことの当然の結果として、シーサイドプラザの運営利益をもって財団に対する債権者への公正な弁済をする方針を樹立せざるを得ないこととなった。

そこで、呉屋は、八月二六日、訴外会社の創立総会及び取締役会開催後に、記者会見をして、「今後はシーサイドプラザを健全に運営し、未払金の返済を終えた段階で、運営会社は解散させたい。」旨を述べ、また「備品代の七〇パーセント、借入金、未払い運営費は会期中に支払う。旅行業者からの前受け金も会期中に処理する。残りの収益を建設関係の債権に比例配分する。」との弁済方針を発表し、右談話は、翌二七日の琉球新報紙には四段見出しつきで、同じく沖繩タイムス紙にも四段見出しつきで、それぞれ報道された。

また、九月一四日には、あらかじめ新聞広告のうえ、訴外会社の運営と利益処分方針につき財団債権者の同意をとりつける目的で、財団債権者会議が開催されたが、約七〇名の債権者の前で、訴外会社代表取締役となった呉屋は、八月二六日の記者会見におけるとほぼ同様の債務処理案を示し、被告ら旅行業者に関しては、「シーサイドプラザ運営による荒利益約五億四〇〇〇万円から旅行業者の前受金の清算を行う。」旨述べて債権者らの承認を得た。ただ、右会議には、二、三の旅行業者が出席したが、被告ら各社は出席していなかった。

そして、右会議後、呉屋は記者会見して「再建計画は軌道に乗った。運営委の発足で未払債務の公平な処理は可能だ。委員会は運営会社と連絡を密にしながら公正に処理していきたい。」旨を述べ、翌一五日の琉球新報紙には財団債権者会議開催に関する記事及び呉屋の談話が四段見出しつきで報道された。

以上の事実が認められ、証人呉屋秀信の証言中右認定に副わない部分は措信しない。

ところで、商法二八条にいう「広告」とは、営業譲渡人の債務を譲受人において引き受ける意思を有する旨を多数の人に認識され得る手段をもって表示することをいうと解されるが、右に認定した事実関係のもとで、被告ら旅行業者に対し前渡金清算義務引受の広告ありと解されるかどうかを検討するに、右にいう広告は、その行為の時点で債権者に個別に了知されることを要しないと解すべきであるから、九月一四日の財団債権者会議における呉屋の債務弁済方針発表は、右会議に出席しなかった被告らに対する関係でも、右にいう広告に該当するものというべきであるし、さらに、当時シーサイドプラザに関する記事が度々新聞紙上を賑わし、一般の関心を集めていた情況のもとで、新聞記者に対して前記内容の談話を発表すれば、当然新聞紙上に報道され、一般に周知されるところとなることは容易に予想できたものであり、呉屋はそのことを承知のうえで新聞記者に談話を取材させ、よって新聞紙上に報道させたものであるから、呉屋の新聞記者に対する取材機会供与の各行為は「広告」に当るものというべく、その内容においても、旅行業者に対する前渡金清算義務の引受の点は八月二六日の談話においては明瞭に表示されているといえるし、九月一四日の談話においては旅行業者の前渡金清算の趣旨が具体的に表示されてはいないけれども、八月二七日付新聞報道を前提とする続報としての談話である趣旨はその内容において十分汲みとれるから、八月二七日付新聞報道と一体としてみるのが相当であり、然るときは九月一五日付新聞報道においても旅行業者の前渡金清算義務引受の意思は表示されているものといえる。しかして、八月二六日の時点では訴外会社が設立に至っていないこと前叙のとおりであるが、会社設立後の九月一四日の談話が債務引受の広告と解される以上、呉屋の行為の結果が訴外会社に及ぶのは当然である。

以上の次第で、商法二八条を根拠とする被告らの前記抗弁は理由がある。

6  しかして、被告ら訴訟代理人らが、昭和五一年一一月一六日の本件口頭弁論期日に、原告に対し前記前渡金返還請求権をもって本訴請求債権と対当額で相殺する旨の意思表示をしたことは、当裁判所に顕著である。

そうすると、被告らが有する前渡金返還請求権の数額は、被告東武トラベル、同読売旅行、同日本エアーツーリストについてはいずれも原告の本訴請求金額を上廻るので、右各被告について原告の予備的請求は認容すべくもないが、被告沖繩ツーリストについては、原告の本訴請求金額中不当利得の成立する一億二〇六四万八〇〇円に対し、前渡金は五〇〇〇万円であり、またそのほかに弁済がなされたことに争いのない四五〇〇万円を差し引くと、残存債権は二五六四万八〇〇円となる。

四  そこで、被告沖繩ツーリストの抗弁3について判断する。

同被告は、訴外会社が財団の債務不履行による損害賠償債務を承継したと主張するけれども、訴外会社が財団の基本宿泊契約上の地位を承継したとする抗弁2(一)(二)(三)の理由がないことは、前記三234で判断したとおりであるし、商法二八条の適用についても、前記認定事実によれば、前記の八月二七日付と九月一五日付の各新聞報道及び九月一四日の債権者会議での承認事項中には、いずれも、財団の債務不履行責任に基づく債務については全く触れられていないし、前認定の債務引受広告をもって一般的に財団のあらゆる債務を引き受ける趣旨のものとは解し得ないから、被告沖繩ツーリストのこの抗弁に関しては、商法二八条を適用する余地はない。したがって、同被告は訴外会社に対し二五六四万八〇〇円の不当利得金返還債務を有することになる。

五  なお、原告は、予備的請求について催告の翌日からの商事法定利率による遅延損害金を請求しているので、これについて考えるに、訴外会社の請求権は不当利得の規定に基づいて発生したものではあるが、被告ら旅行業者がシーサイドプラザに送客して宿泊させた行為は被告らにとって商行為であったことは明らかであり、商法五一四条は当事者の一方にとって商行為たる行為によって生じた債務について適用されるのであるから、本件不当利得返還請求権については商事法定利率による遅延損害金の請求をなし得ると解するのが相当である。

第三結論

以上によれば、原告の本訴請求のうち、主位的請求はいずれも理由がないので棄却し、予備的請求は、被告沖繩ツーリストに対して、金二五六四万八〇〇円と、これに対する催告の翌日である昭和五二年九月二二日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲守孝夫 裁判官 照屋常信 赤西芳文)

<以下省略>

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